読書する女

本を読むこと以外、すべてのことを放棄してしまいたいエディター&ライター、Aliceによる本の話、日々のこと。

BOOK011 『お皿監視人』 ハンス・ツィッパート

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ミヒャエル・ゾーヴァの絵にひかれて手にしたのだけれど、思いのほかお話も楽しくて、何度も読み直している作品です。

お天気は人々が出された食事を残すか、きれいに食べ切るかで決まっているという設定の物語。

そんなお天気とご飯の因果関係を逆手に取ったビジネスをはじめた「お天気マフィア」と、マフィアのからくりを見抜いた子供たちとの戦いを描きます。

お天気マフィアと闘う子供たちがいわゆる絵本に出てくるような無垢なキャラではなく小生意気だったり、ブラックコメディの話の展開は、かなりわたし好みでした。

 

お皿に食べ物を残すか、残さないか、それを管理しコントロールすれば、農作物の出来はもちろんのこと、公害を引き起こすこともできてしまうわけですから、とても怖いお話。

たとえば日本なら、食べ放題のお店ばかりを流行らせて食べ残しを激動させることで、雪に弱い東京にずっと雪を降らせればいい。

首都機能はマヒして……、とういう可能性だってありえるわけです。

日本は四季があって、作物が育つには恵まれた環境にあるから鈍感になりがち(特に、雪や雨や、猛暑の被害が日本の中でも少ない東京で生まれ育った私は特に)だけれど、お天気は穏やかな生活のために必要不可欠なものなのです。

 

ああ、今日も雨か……、もういい加減寒いのはイヤ! と毎日、朝目が覚めて窓を開けるたびに文句を言ってばかりの生活をちょっと見直したくなります。

玄関に置かれた火鉢。

編集や執筆の仕事をしていると、パソコンの前でずっと調べ物をしたり、原稿を書いたり、資料を読んだりしている時間が多くなるので
日々、運動不足を感じます。

という訳で、今日は自宅から徒歩30分くらいのところにある亡き祖父母の家のあった街まで歩いて出かけてきました。

通っていた小学校までの通学路や好きだった男の子の家の前、商店街……。
記憶の中にある路地を歩きながら、変わった風景、変わらない風景に一喜一憂されられました。

祖父母の家が近づいてきて、私は立ち寄るか、ぐるりと遠回りをして、見ないで帰ってしまおうか、すごくすごく悩みました。
なぜなら、祖父母の家がいま、どうなっているのか、私は今日の今日まで知らなかったからです。

祖父が亡くなり、祖母がひとり残されたとき
幼い頃の思い出がたくさんつまった祖父母の家は売りに出されて、人の手に渡りました。
あまりにたくさんの思い出が詰まったあの家があの場所になかったら、仕方がないことだと分かっていてもすごく傷つくような気がします。
まるで、私の思い出まで、他人の手で壊されてしまったように感じてしまいそうで怖かった。

でも、本を読むのが大好きで、いつも穏やかな笑顔でそばにいてくれた祖母を思い出しながら
ゆっくりゆっくりと道を歩き、
「きっと、おばあちゃんなら、家がなくなっていたとしても
笑ってるわ、きっと」
と思い直して、行ってきました。

その場所にあったのは、あのときのままの家でした。
あの時と違うとしたら、とってもきれいに庭が手入れされていたこと。
一番大きかった真っ白な花をつけるこぶしの木は、あの頃より少し大きくなっているようでした。
そして、玄関の屋根の下あたりに大きな火鉢が置いてあったこと。
中を覗き込んだら、金魚が冷たい水の中を、すいすい泳いでいました。
見覚えのあるその火鉢は、おばあちゃんが庭に置いていたもの。
同じように、金魚を中で育てていたのです。

どんな方がこの家で暮らしているのか分からないけれど
「私たちの思い出がたくさん詰まったあれこれを
大事にしてくださってありがとうございました!」
と心の中で大きな声でお礼を言って、深く深く頭を下げて帰ってきました。

そして思ったのでした。
家があるとかないとか、風景が変わったとか変わらないとか、そういうことじゃないんだな、って。
思い出は、ちゃんと私の中にある。
だから、どんなに街が変わっても、どれだけ時間が経っても
大丈夫。

数日前のお買い上げ本。

木曜日の夜に勃発したトラブルが原因でバタバタしていたので、郵便物を開いたりする時間がなかったのですが、インターネットで注文していた本が届いていました。

なので、数日前のお買い上げ本ということになりますね。
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⚫「草獅子 vol1」双子のライオン堂

赤坂にある、ちょっと風変わりな本屋さんが創刊した文芸誌です。

芥川賞候補作にもなった今村夏子さんの「あひる」が収録されていた「たべるのがおそい」、震災に見舞われた熊本で誕生日した「アルテリ」もこの一年くらいで産声をあげたもの。

このところ、にわかに文芸誌まわりが活気づいています。

そんな流れのなかで本屋さんが作った文芸誌が、いよいよ創刊されたとなれば、手にとらないわけにはいきません。

こういう雑誌で執筆できるライターになりたいものです。

BOOK010 『雪だるまの雪子ちゃん』 江國香織

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54年ぶりに11月の東京に雪が降る、というニュースを聞き、読み返しました。

人が積もった雪で作ったた“人工的”な雪だるまではなく、“野生”の雪だるまの女の子、雪子ちゃんを主人公にしたお話です。

冒頭に出てくるこの野生の雪だるまという言葉に、読むたびにめろめろになってしまいます。

だって、雪だるまに、野生だなんて。

その着想、すごいと思いませんか?

 

野生の雪だるまの女の子が主人公なのはもとより、江國香織さんの筆致や山本容子さんの銅版画が相まって、全体としては絵本のような雰囲気。

でも、私にはこの本が子供向けの絵本のようには思えません。

なぜなら、四季や人間の生活を見つめる雪子ちゃんのまなざしは、子どもが大人の世界を見るそれととても似通っていて、大人である私たちこそ改めて気づかされることばかりだからです。

大人のお手本みたいな位置づけとして登場する、雪子ちゃんの一番親しい友人であり隣人の百合子さんを見る雪子ちゃんのまなざし、そして二人のやりとりは、身につまされます。

 

今日の雪はどうやら積もらないようですね。

この冬、あと何度雪が降るかわかりませんが、そのたびごとに読み直すことになる予感。

今日のいただき本。

お手伝いしている某女性誌の編集部には、書評ページに取り上げてもらおうといろいろな出版社から大量の本が送られてきます。

残念ながら書評で取り上げられなかった本は、

「ご自由にお持ちください」

というメモ紙の貼られた段ボール箱に入れられ、定期的に放出されるのが慣例です。

 

いつもスタートダッシュに乗り遅れて、お目当てのほんは誰かの手に渡ってしまうのですが、残りものには福があるもの。
今回の放出では、この2冊をいただきました。

 
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お金を出してかったものではありませんが、積ん読に仲間入りということで、今日のいただき本として記事にすることにしました。

 

⚫『グレース・ケリー モナコ公妃のファッションブック』青幻舎

美しきモナコ公国のプリンセス、グレース・ケリーのファッション、お気に入りのブランドや愛用のアクセサリーなどをカラー写真満載で紹介。

オードリー・ヘップバーンはじめ、品があってもとびきり美しく、どこかチャーミングな女性に惹かれる私にとって、グレース・ケリーは憧れです。

眼福な1冊。

 

⚫『魔女の12ヵ月』 飯島都陽子  山と渓谷社

別に魔女になりたいと思っているわけではありません。

ラベンダーの砂糖漬けやホタテのスパゲティ、パンプキンスープなどなど、おいしそうなレシピが載っているようだったので、レシピ本として勝つようするつもり。

 

 

クラフト・エヴィング商會のこと②

私とクラフト・エヴィング商會さんとのちょっとしたご縁について書いた
クラフト・エヴィング商會のこと」

woman-reading.hatenadiary.jp


の続きを書こうと思います。

クラフト・エヴィング商會さんとお仕事をするために、文芸編集者になるぞ!と決意してから2年くらい経った頃、私は文芸編集部のある会社に転職。
そのころ、クラフト・エヴィング商會の出版物の文章をすべて書かれていた吉田篤弘さんは、ユニット・クラフト・エヴィング商會ではなく、
個人のお名前でエッセイや小説をたくさん出版するようになっていらっしゃいました。
「よし、これでお仕事ができる」
と喜び勇んで、文芸編集者として、吉田篤弘さんに連絡すると、体調を崩して、少しの間、書くことをお休みしている最中ということを知ったのです。
「体調が回復して、書くことを再開したら、必ずご連絡をします」

という言葉を信じ、回復を祈りながら待つことに……。

そして月日が経ち、私は文芸編集部から、週刊誌の編集部に異動することが決まりました。
ちょうどその頃のことでした。
吉田さんから
「ようやく一緒にお仕事ができるようになりました。一度お話しませんか?」
という連絡をいただいたのです。
先輩の計らいで、異動が決まっていた私も打ち合わせに参加させていただき、連載で小説を執筆してくださることになりました。

でも異動の決まった私が、その連載小説に関わることはできません。
連載された作品は書籍化されましたが、その過程にも私はまったく関わることはありませんでした。

その作品は『イッタイゼンタイ』。

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現在は文庫化もされているはずです。

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吉田さんは、打ち合わせのとき
「あなたからいちばん最初にもらった手紙に書かれていた小説のテーマを、時を経た今、僕はこんなふうに思う、を書く」

というようなことをおっしゃってくださいました。

とてもうれしい言葉。

それなのに単行本ができあがったとき当時の先輩が送ってくれたにもかかわらず、まだ読むことができていません。

クラフト・エヴィング商會とのちょっとしたご縁を思ったり、クラフト・エヴィング商會に対して抱いている自分の想いの強さを感じたりして、まだページを開けないのです。

クラフト・エヴィング商會と私のちょっとしたご縁のお話は、これでおしまい。
このお仕事を続けていたら、もしかしたらまたちょっとしたご縁が生まれるのかもしれません。
おしまいだけれど、おしまいじゃないかもしれない、不思議なご縁のお話でした。

 

 

WORDS007 愛するほどに、苦しくなる。

人ときちんと向き合いたいと思えば思うほど、執着ばかりが深まって、私はどこかおかしくなってしまう。

愛情ではなく、憎しみばかりを育ててしまう。

    『長い予感』 小川内初枝著より

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愛情と憎しみは裏返し、なんてことよく言われる言葉だけれど、愛すれば愛するほど、寛容でありたいと切望する自分とは裏腹に、すべてを自分のものにしたい束縛の強さを発揮してしまったりします

私はこんなに想っているのに……、そう思えば思うほど、心の中は自分のものになりきらない相手に対し憎しみにも近い感情を抱いてしまうこともあるのです。

束縛を窮屈だと感じた相手もまたいつしか、私に憎しみに似た思いを抱くようになるでしょう。

ただ、好きなだけなのに。

好きだから、失いたくないだけなのに。