読書する女

本を読むこと以外、すべてのことを放棄してしまいたいエディター&ライター、Aliceによる本の話、日々のこと。

クラフト・エヴィング商會のこと。

とろりと濃密な恋愛小説が読みたい気分なのに、手元にあるなかにはしっくりとくる本が見つからず、積読の山をひっくり返していたところ、作家・吉田篤弘さんの著作がごそっと出てきました。

吉田篤弘さんは、個人名義で作家活動をなさる前、クラフト・エヴィング商會という名義で活動をしていらった時期があります。

私は、クラフト・エヴィング商會さんの作品の大ファン(それなのに、吉田さんの本は積読なのね! といわないでください)。

 

私が初めてクラフト・エヴィング商會の本を手にとったのは、大学を卒業してちょっとくらいのころで、そのタイトルは「らくだこぶ書房21世紀古書目録」(筑摩書房刊)だったと記憶しています。
ある日、「らくだこぶ書房」という古書店から、未来の古書目録が届いたという設定で、さまざまな架空の本を紹介していくその内容、丁寧な本作りに、私はすっかり魅せられました。
クラフト・エヴィング商會が、吉田篤弘さんと吉田浩美さんのユニットだということを知り、それ以来、新刊が出るたびに発売日当日に買い求めるほどに熱をあげています。

今回はそんなクラフト・エヴィング商會と私のちょっとしたご縁のお話です。

クラフト・エヴィング商會に熱を上げていた駆け出し編集者の私は、どうしてもお二人と一緒にお仕事をしたくて、とあるエンタテインメント系出版社にいる(つまり文芸の作品を出版することなんてできない)のに、
「こんなテーマのお話を書いていただけませんか」

と、お二人に宛てた長い長いお手紙を書きました。
エンタテインメントの出版社の編集者とお仕事をしてくれるはずがないと分かっていたのに、お送りしました。

その数日後のこと。
吉田篤弘さんから1本の電話がかかってきました。
そして「一度ぜひお会いしませんか?」とおっしゃってくださり、お話する機会をいただけることになったのです。
なにを思って本を作っているのか、私が図々しくもお手紙に書いたテーマについて、たくさんお話をして、その言葉一つ一つは、駆け出し編集者だった私の心の奥まで響きました。

結局、当時所属していた版元の出版物とはジャンルが違うと上司からの許可も貰えず、
本を作るまでに至らなかったのはとても残念でしたが、

「一緒にお仕事をしたい」

という思いを諦めるのはやめようと決めました。
そして、いつか絶対にクラフト・エヴィング商會のお二人とお仕事ができるように、
私は文芸の編集部がある会社に転職するぞ!と決心したのでした。

実は、私とクラフト・エヴィング商會のちょっとしたご縁は、ここで終わらなかったのです。
それはまた、次の機会につづく……。