BOOK003 『夕闇の川のざくろ』 江國香織
絵本が子供のためだけのものではないと気付いたのは、いつのことだったでしょう。
子供らしさを失ってしまった自分自身や、子供だけが持つ特有の残酷さを突きつけられる絵本に出会うと、ささやかな恐怖すら抱いてしまうようになったのは、いつからだったでしょう。
人はおそらく元来とても残酷な生き物で、大人になる過程で自分の持つ残酷さを隠すさまざまなテクニックを身につけていくのかもしれません。
本書は、まさに大人のための絵本。
どうしようもない嘘をつき続ける女性しおんと、彼女の嘘を嘘だと知りながら聴き続ける幼馴染のお話です。
作品の中で、ふたりはビーフシチューを作っているだけで、これといった事件は起きません。
一人はただひたすら嘘をかたり、一人はただひたすら聞いています。
多くの人は、嘘をつく人間を毛嫌いするのだろうし、友だちにも恋人にもなりたくないと思うでしょう。
でも、この作品中で主人公のしおんがつく嘘は、誰にも迷惑をかけるわけでもない、傷つけるわけでもない類のもので、「嘘」と言えば確かにそうなのだけれど、私には“想像力の賜物”のように感じられて仕方がありませんでした。
しおんのつく嘘があまりに魅力的で、彼女に魅せられてしまうくらい。
もし、しおんのような友人がまわりにいたら、彼女が紡ぐ嘘を聞きたくてたまらなくなり、そばを離れられなってしまうでしょう。
嘘をつくのは、いけないこと。
でも、まったく嘘をつかずに生きている人なんていません。
もし嘘をつくことがあるのだとしたら、この作品の“しおん”みたいに、どうしようもなく魅惑的な嘘をついてみたいものです。
嘘は悪?
本当に?