WORDS009 最も効果的な復讐の方法とは。
君の幸せだけが、君に起きたいろんなことに対する復讐なんだ。
『彼女について』よしもとばなな より抜粋
よしもとばななさんの小説のなかで、このフレーズが登場するのは重みのあるシーンなのだけれど、程度の差こそあれ、私のような人間にだって、復讐心が芽生えることある。
たとえば、
仕事で、すっごくムカつく上司とうまくいかなくなて、異動になった。
どうしようもない男に、どうしようもない振られ方をした。
一緒に合コンに行った後輩が、どうやら私の狙っていた男を落としたらしい。
なんて、時に……。
どうしたら、あいつに、あの人に、いやな思いをさせられるか。
人間ですもの、そんな負の感覚にとらわれることだって、あるわけです。
しばらくの間、復讐心を心の中でフツフツと湧きあがらせていると、ふとそこから自由になれる瞬間がきます。
そして、
異動になった部署で、成績上げて、部から追い出しことを後悔させてやる。
どうしようもない男と再会した時に、いい男を連れてて、最高の笑顔を見せてやる。
今度一緒になった合コンでは、私がいい男を落としてやる。
というように、相手に対して何かを「する」のではなくて、自分自身の行動で状況を変えてみせるとポジティブに考えられるようになるもの。
ここまでくれば、復習はなかば完了したも同然です。
あとは、本当に自分の行動で状況を変えて、幸せになっちゃえばいい。
復讐対象が羨むくらいの自分になってしまえばいいのです。
BOOK012 『布じまん』 大谷マキ
会社に置かれた「ご自由にお持ちください」箱に入れられていたのが目に入って、持って帰ってきた1冊です。
この「布じまん」はお裁縫の本でも、刺繍の本でもありません。
暮らしの中の1シーンで使われている布、布のある光景が切り取られた写真が、ただひたすら集められているだけです。
だから、ちくちくと針仕事をしたいとか、刺繍の図案が……という方は別の本を手にとったほうがいいでしょう。
実用書というよりも、ビジュアル書と言ったほうがしっくりきます。
。
お裁縫を趣味にしているわけではなく、特に布好きというわけでもない私が、どうして、タイトルをみただけでこの本を持ち帰ってきたのか。
自分でもよく分からないままページを開きました。
読了してみると、なんとなくその理由がわかったような気がしました。
私にとって布は、そのまま母親との思い出につながります。
実家で家族や愛犬とのんびり過ごししたいと思いながらも、仕事が立て込んでバタバタしていているとそうも言っていられません。
そんな時でも、この本を開けば母といるときの安心感を得られるような気がしました。
母が作ったお洋服ばかりを着ていた私のなかで、印象に残っている母の姿は、台所に立っているか、お裁縫をしているかのどちらかです。
パッチワークを趣味としていた母。
家のなかはいつも布であふれていたし、型紙に合わせて切り取った布の端切れがあちこちで小さな山を作っていました。
その端切れを空高く投げ上げ、糸巻きの糸を転がしてたりして遊んでは、母に
「まったく、あなたは何をやっているの!」
と怒られたものでした。
もういい年なので、ちょっと嫌なことがあったくらいじゃ、
「ねえ、お母さん」
なんて甘えるのは格好が悪いような気がしてなかなかできません。
だからこそ、幼い頃の母との記憶を呼び起こしてくれるこの本は、なにかあったときの特効薬になりそうです。
布と本をおもちゃにしていたは、今こうして布の本に救われて、もうひと頑張りしようとしているのだから不思議なものです。
廃棄される直前だったこの本と、「ご自由にお持ちください」箱で出会ったのも、なんだか不思議な縁のように思えて仕方がないのでした。
今日のお買い上げ本。
今年の仕事の山を越えたので、
「本を読むのだー!」
「本が読めるぞー!」
と、読書欲とお買い上げ熱でぐつぐつと煮立ったようになりながら本屋さんへ。
そして買ったのが、こちらです。
⚫「つるとはな 4号」
「クウネル」リニューアル後、唯一、毎号購入している雑誌です。
編集長の岡戸絹枝さんと、いつかお仕事をご一緒するのが私の目標。
岡戸さんが編集長をしている雑誌で、ライターとして原稿を書くんだ、いつか、絶対。
いろいろな形があって、たとえそれがどんな形でも、暮らしとは、人生とは愛おしいものである。
今号も、きっとそう思わせてくれるに違いありません。
あの森茉莉さんが綴ったお洒落のエッセイを、フリー編集者の早川茉莉さんが集めて編んだ1冊。
あとがきは黒柳徹子さんだというのですから、なんとも贅沢です。
早川茉莉さんが編集したアンソロジーはこれまで何冊か読んでいますが、そのセンスのよさにいつもうっとりさせられます。
この本もきっと、期待を裏切らないでしょう。
⚫『鳥の巣』 シャーリィ・ジャクソン 国書刊行会
先日は文庫の新刊を買ったシャーリィ・ジャクソン。
こちらは多重人格小説だとか。
一気に読み終えたいから、年末年始休暇中の本に決定です。
⚫『本の時間を届けます』
昔、『女子の古本屋』という本がありました。
岡崎武さんが、古本屋稼業に足を踏み入れた女性をルポするといった内容で、当時の古本屋業界において女性が珍しいという背景もあって出版されたものでした。
いまや古本屋業界、書店業界ともに、女性の存在は決して珍しくはありません。
だからこそ、個性というか、覚悟や想い、こだわりがないと生き残っていけなくなってきているようです。
本が好きだから、本で暮らすことを選んだ、今の女性たちを取り上げた本。
同じように、編集、執筆という立場から、本で暮らすことを選んだ私は避けて通るわけにいかないのです。
⚫『ふたりから ひとり』
つばた英子 つばたしゅういち 自然食通信社
『ときをためる暮らし』で、時の流れや自然の変化を受け止めながら、自給自足で、手間ひまを楽しむ暮らしを綴ったつばたさん夫婦。
夫であるしゅういちさんが亡くなっても、暮らしは続いていく、いいえ、続いていってしまう。
生きることと真剣に向き合う人だけが、語ることを許される言葉がギュッと詰まっているはず。
「暮しの手帖」の編集長だった花森さんは戦時中に国策広告を作っていたことを後悔していたそうです。
「戦争中の暮しの記録」という本も出しています。
二度の従軍と大政翼賛会宣伝部時代に書き残した手帳などから集めた言葉と図版集。
花森さんのルーツが知りたくて、手に取りました。
以上、6冊をお買い上げ、です。
いつかのお買い上げ本。
年末進行で忙殺されていて本を読む時間がないのに、買わずにいられなかった、ちょっと前のお買い上げ本。
⚫『あひる』今村夏子 書肆侃侃房
書肆侃侃房さんが発行している文芸誌「食べるのが遅い」に掲載された、表題作とほか2篇が収録された短編集。
今村夏子さんは2010年に上梓した『こちらあみ子』でその、静かながら熱情も孕んだ筆致と世界観に魅せられて、大好きな作家さんの1人になった方。
『こちらあみ子』以来6年ぶりの単行本ということで、楽しみにしています。
最近では、“文章を書く”と言っても、正確にはパソコンやスマホで“打つ”ことが多くなりました。
それでもやっぱり手書きが好きで、ブルーブラックインクの万年筆を、ペン先の太さ別に3本持ち歩いている私。
書くことを改めて見つめなおすという片岡義男さんの試み、ぜひ読みたくなりました。
⚫『ココアどこ わたしはゴマだれ』高山なおみ スイセイ 河出書房新社
それぞれがそれぞれのしたいことができるようにと、夫のスイセイさんと住まいを別にした高山なおみさん。
ますます、その仕事ぶりが気になるところです。
別居中のスイセイさんとの共著。
一度お仕事をご一緒したときに、高山なおみさんがスイセイさんを語ったときの、声や表情
言葉を思い出しながら手に取りました。
⚫『処刑人』シャーリィ・ジャクソン 創元推理文庫
『ずっとお城で暮らしてる』を初めて読んだときの衝撃が忘れられず、読みつづけているシャーリィ・ジャクソン。
狂気に囚われた人を描くことで定評のあるシャーリィ・ジャクソンですが、彼女の書く作品のゴシックホラー的要素が、私には堪らないのです。
大好物です。
このところ再評価されているのか、新しい作品が書籍化されることが増えている気がします(彼女は既に亡くなっていて、新しい作品が発表されている訳ではないのにね)。
これまた大好きな合田ノブヨさんによる表紙画も素敵。
年末年始に読むのが楽しみな1冊です。
WORD008 自分らしさの正体。
「誰ぞを手本とし、その誰ぞのように生きようとすることはあっても、己のごとくに生きようとは、人は思うたりはせぬものだ」
私らしい生き方、私らしい仕事、自分探し、なんて言葉が氾濫していています。
その結果、たとえ自分を見つけたとしても
「それって本当に自分らしさなのかしら?」
と疑問に思うことがあるのです。
結局は、憧れの誰かのあとを追っかけているだけなんじゃいかしら? と。
どんな自分らしくいるつもりでも、知らず知らずのうちに、誰かの真似をしている人は多いのではないでしょうか。
自分らしさはそんな簡単に見つかるものではないし、もしかしたら、そもそも自分らしさなんてものは「ない」のかもしれません。
環境や交友関係が変われば、自分自身も自然と変わっていくもの。
まわりが変わっても、頑なに変わらないものが、本当に自分らしさなのでしょうか。
やわらかく変化させられることも、大きな大きな美徳です。
ただがむしゃらに自分らしさを見つけようとして迷路に入り込むくらいなら、まずは、周囲に尊敬できる人、目標になる人を見つけて、自分をしなやかに変化させることからはじめたほうが、自分探しの近道になることだってあるでしょう。
その人たちに近づこうと悪戦苦闘をつづける中で、意味の自分らしさのカケラを見つければいい。
幸運なことに、カケラを手にすることができた人は、それを大切に育ていけばいいのです。
いつかのお買い上げ本。
年末進行の忙しさのなかで、時間を見つけては本屋さんにいって、積読の山の高度を上げつづけておりました。
ということで、いつかのお買い上げ本。
●『ずっと独身でいるつもり?』KKベストセラーズ
●『東京を生きる』大和書房
●『女の子よ銃を取れ』ポット出版
●『自身のない部屋へようこそ』ワニブックス
●『まじめに生きるって損ですか?』ポット出版
計5冊。
おそらく彼女が亡くならなければ、その著作を手に取ることはなかったと思います。
なぜなら、私は"弱者"とカテゴライズされるような人たちテーマにした創作物でお金儲けをしている匂いがする方の作品に、お金をびた一文も払いたくないと思っているからです。
雨宮さんが注目を集めるきっかけになったのは『女子をこじらせて』という作品。
女性としての自分に自信がもてなかったり、肯定的に思えなかったり、女性に生まれたがゆえの社会から受ける扱いに悶々とした思いを抱えていたり……。
さまざまな理由で女性としての自分をこじらせている人に向けた強烈なメッセージブックとして、当時は扱われていました。
そんな世間の評価を耳にして
「女性である自分と向き合うことすら苦しい人だっているのに、そういう人の気持ちに寄り添うふりをして、お金儲けをしようとしている人」
というレッテルを雨宮まみさんに貼りつけて、著作を読もうともしなかったのです。
でも、雨宮さんがお亡くなりになって今後作品が出ないということは、私のなかの雨宮まみさんに対する認識を覆す機会はなくなってしまったということになります。
著作も読まずにあれこれ言うわけにはいかないという理由から、先日『女子をこじらせて』を読んだのです。
読んでみて、私が著作も読まずに雨宮まみさんに貼りつけたレッテルは間違っていたことに気づきました。
そして、彼女の書く、他社と理解しあいたいと渇望すること、でも理解し合えないという諦め、自分で自分に対して抱く期待と裏切られた悲しみなどなどに打ちのめされたのです。
これは苦しむ人に寄り添う振りをしてお金儲けをする輩とは大違い。
どうして今まで、避けてきてしまったんだろうと大きな後悔に襲われました。
死を悼むとかそういうことではなく、純粋に雨宮まみさんという書き手を知るためのお買い上げです。
どうして年明け早々、本屋さんに最新号の雑誌が並んでいるのか。
出版業界には、“年末進行”というのがありまして、師走になりお経をあげるために、東西を馳せる師匠の僧と同じくらい、いいえ、もしかしたらそれ以上、関係者は忙しい日々を過ごすことになります。
「年末進行ってなに?」という方にご説明しましょう。
年末年始のお休みがおわって、仕事始めのころに本屋さんに行くと、雑誌コーナーには年明け後に秦奪いとなった最新号が並んでいると思います。
雑誌を印刷して、本の形に製本してくれる印刷所や製本所は、年末年始は当然休業です。
できあがった本や雑誌を書店さんに流通させてくれる、トーハンや日版さんのような取り次ぎさんもお休みです。
だから、年明け早々に書店に並んでいる本は、印刷所や取次ぎさんがお休みになるまえに、本にしておかなければ、読者の方たちのもとに届けられないということです。
年末年始休業は約1週間くらいでしょうか。
本や雑誌にかかわる人たちは、そのお休みの分、進行スケジュールを思いっきり前倒しして、下手すると2号を同時並行するような状況で仕事をすることになる……。
というのが、年末進行です。
これは、年末だけではなく、ゴールデンウィーク、お盆、シルバーウィークなど、カレンダーに赤い数字が並ぶと起きるもの。
「連休、やったー!」
と純粋に喜べないのが、出版関係者の悲しい性なのです。
そんなこんなで、ブログの更新ができないくらい“年末進行”にずっぽりとはまっています。
ただ、どんなに忙しくても本屋さんに行って、本を買うことをやめられないのは変わりません。
どんなに忙しくても、山積みになった本を引っ張り出しては、たとえ数行であっても読書の時間を作るのも変わりません。
数日だけですが、年末進行の沼から息継ぎのため顔を出せるくらいの余裕が出てきたので、ブログ更新してみました。
どんなに忙しくても散財した本のあれこれは、また夜にでも……。