BOOK012 『布じまん』 大谷マキ
会社に置かれた「ご自由にお持ちください」箱に入れられていたのが目に入って、持って帰ってきた1冊です。
この「布じまん」はお裁縫の本でも、刺繍の本でもありません。
暮らしの中の1シーンで使われている布、布のある光景が切り取られた写真が、ただひたすら集められているだけです。
だから、ちくちくと針仕事をしたいとか、刺繍の図案が……という方は別の本を手にとったほうがいいでしょう。
実用書というよりも、ビジュアル書と言ったほうがしっくりきます。
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お裁縫を趣味にしているわけではなく、特に布好きというわけでもない私が、どうして、タイトルをみただけでこの本を持ち帰ってきたのか。
自分でもよく分からないままページを開きました。
読了してみると、なんとなくその理由がわかったような気がしました。
私にとって布は、そのまま母親との思い出につながります。
実家で家族や愛犬とのんびり過ごししたいと思いながらも、仕事が立て込んでバタバタしていているとそうも言っていられません。
そんな時でも、この本を開けば母といるときの安心感を得られるような気がしました。
母が作ったお洋服ばかりを着ていた私のなかで、印象に残っている母の姿は、台所に立っているか、お裁縫をしているかのどちらかです。
パッチワークを趣味としていた母。
家のなかはいつも布であふれていたし、型紙に合わせて切り取った布の端切れがあちこちで小さな山を作っていました。
その端切れを空高く投げ上げ、糸巻きの糸を転がしてたりして遊んでは、母に
「まったく、あなたは何をやっているの!」
と怒られたものでした。
もういい年なので、ちょっと嫌なことがあったくらいじゃ、
「ねえ、お母さん」
なんて甘えるのは格好が悪いような気がしてなかなかできません。
だからこそ、幼い頃の母との記憶を呼び起こしてくれるこの本は、なにかあったときの特効薬になりそうです。
布と本をおもちゃにしていたは、今こうして布の本に救われて、もうひと頑張りしようとしているのだから不思議なものです。
廃棄される直前だったこの本と、「ご自由にお持ちください」箱で出会ったのも、なんだか不思議な縁のように思えて仕方がないのでした。