読書する女

本を読むこと以外、すべてのことを放棄してしまいたいエディター&ライター、Aliceによる本の話、日々のこと。

BOOK021『田村はまだか』  朝倉かすみ

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無条件で、未来がキラキラ輝いたものになるだろうと信じられた時期。

まわりで起きる様々な出来事が理不尽に思えて、その理不尽さと闘えていた時期。

いまの自分を、無条件で“幸せ”だと思えた時期。

 

人生にはさまざまな「時期」があり、、リズムもあります。

たとえどんな「時期」であったとしては、人は良いことも悪いこともあるけれど、今と一生懸命に向き合うことが大切」と思うものです。

そして、そんな日々の中、ときにふと立ち止まって考えます。

 

未来なんて、そうそう簡単にキラキラ輝くものではないし、理不尽と闘ってみたところで自分一人でどうにかできるものでもなさそう。

自分は幸せだと思っていたけれど、それは思いこもうとしていただけ。

思い描いていた幸せはこんなものじゃなかったはずだ。

そんな考えが頭を占拠することも起こりえます。

そしていつしか、人は未来を期待することも理不尽と闘うことも、そして幸せを強く求めることもしなくなっていって――。

 

人生におけるさまざまな「時期」において、こうした“停滞”の色を帯びた時間も当然生まれます。

 

物語は、小学校の同窓会の3次会が舞台です。

深夜のバーで、同級生の「田村」がやってくるのを待つ男女五人も、そんな停滞期の真っただ中。

田村との思い出を語り合いながら、彼らの「今」が浮き彫りになっていきます。

そして、田村とともに過ごした小学生の自分いはあった希望のようなものを、田村の登場によって再び取り戻せるのではないかという期待とともに、彼らの思い出話は熱を帯びていくのです。

登場人物たちと一緒に田村の登場を待ちわびながら、私自身、これまでの自分とこれからの自分に思いを馳せました。

 

たとえどんな「停滞」を生きていたとしても、諦めにとらわれそうになったとしても、すべての希望を手ばなすことができないのも、人間らしさです。

もがいたからこそ見つかる、新たな希望もあるでしょう。

今の自分とあの頃の自分を比較しすぎても仕方ない。

田村と過ごした時間があったからこそ、今の彼らがいる。

昔の私は、いまの私の一部なのだから。