BOOK018 『建てて、いい?』 中島たいこ
居場所、って難しい。
実家では、お仕事の関係で共に暮らしていた母や父、弟と生活のサイクルが6時間くらいずれていて、顔を合わせることもあまりなく、玄関の出入りや洗面台で立てる音などにかなり気を使う日々を送っていた時期がありました。
自分の実家のはずなのに、なんだか居候をしている間借り人みたいな感覚に襲われたものです。
そして恋人と暮らしていたときはマンションの借主の名義は同居人で、書類上、私は「同居人」なので、これまた自分の住まいと堂々と胸を張れない立場になっていました。
自分だけの居場所が欲しい、と思うことがかなり多い家に住まう経験してきたと言えるでしょう。
居場所問題は、家だけに限った話ではありません。
会社での居場所も、そのひとつ。
仕事の好調、不調の波は誰にでもあるもので、好調の波に乗っているときは、職場における自分の居場所なんてものを意識することはあまりありません。
でも不調の波にはまってしまったときは
「私、この場所にいていいの?」
なんてことを考えたくなるもの。
恋愛だって、同じです。
「彼の隣が私の居場所」
と何の疑いもなく思えることもあれば
「もしかして、もうここには私の居場所はないのかも?」
と不安にかられることも……。
どんな場面においても、“居場所”問題は大問題なのです
。
自分の居場所を求め、家を建てることを決意する30代半ばの独身女性が主人公の本書。
表題作を含め2編の物語が収録されています。
自分の居場所を作りたいだけなのに、周囲からたくさんの反発にあったり、居場所が本当に必要なのか迷ったり、その道のりは紆余曲折ばかりです。
その紆余曲折っぷりに共感しながらも
「でも、居場所って、そういう問題じゃないんだな、きっと」
と思い至りました。
自分名義の家があっても、仕事が好調でも、居場所を作ってくれる恋人がいたとしても、自分の居場所を求める気持ちがなくなることは、きっとありません。
なぜなら、“居場所”というやっかいな代物は、外部からもたらされるものではないから。
自分で自分の心の中につくったものが、本当に自分だけの居場所になるはずだから。