BOOK017 『さようなら窓』 東 直子
男女の間で、“気づいてしまうこと”は時に命取りになります。
それは決して、浮気とか、嘘とかそういった類のものだけではありません。
“好き”だと思い込んでいただけで、実は“好き”じゃない、と気づいてしまうなんて、致命的な“気づき”も存在します。
そして、本作に登場するきいちゃんとゆうちゃんも、気づいてしまうのです。
致命的な事実に。
この2人にとっての致命的な“気づき”になったのは
「一緒にいると自分がダメになる」
「一緒にいると、自分のせいで相手をダメになってしまう」
というもの。
大好きなのに、一緒にいたいのに。
一緒にいるとダメになる。
こんな悲しい話があるでしょうか。
きいちゃんとゆうちゃんは、その“気づき”によって離れることを決心するのだけれど、私はきっと、いや、間違いなく、たとえ気づいてしまったとしても、見なかったことにして、蓋をして、大好きな人の隣に居つづけてしまいそう。
早く気づけは傷は深くならずに済むのかもしれないけれど、気づいているのに見ない振りをすると、傷はどんどん深くなっていくものです。
気づいてしまったけれど、見なかったことにしたい。
傷がどんどん深くなっていくのを自覚しながら、それでも一緒にいたい欲求に抗うことができない、そんな感覚こそが、恋を恋たらしめる、愛を愛たらしめているのだと思うから。
東さんの小説を読むと、どういうわけか東さんの短歌集がよみたくなります。
小説の東直子さん。
短歌の東直子さん。
それぞれが、私に投げかけてくるものと向き合っていると、言葉の在り様についてあれこれ考えさせられます。
そんな自分の中で起きる相乗効果も楽しみのひとつです。