読書する女

本を読むこと以外、すべてのことを放棄してしまいたいエディター&ライター、Aliceによる本の話、日々のこと。

あなたのカケラ。

かつて、のめり込むように読んでいた作家さん。
今でも新刊が出ればすぐに飛びつくように読んでいる作家さんもいれば、いつのまには読まなくなっていった作家さんもいます。
そして、「最近、新刊出ないな」と思っているうちに、数年が経ち、もう書くのを辞めてしまったのかなと
残念に思っている作家さんも……。

辻内智貴さんや小川内初枝さんは、そういう作家さんのひとりです。

夢を抱えながら、ビルの窓の清掃員として働く男性たちのまっすぐで、孤独で、でもあたたかい物語『青空のルーレット』や地方にあるドライブインを営む男性が生きるとは、人生とはと真正面から向き合う姿、そしてそこに集まる人々の抱える思いを描いた『セイジ』。

辻内さんの作品を何度も何度も読み直しながら、こんな人の気持ちをざわりとさせる小説に関わる文芸編集者になるぞと、涙を流したものでした。

好きすぎて苦しくなって、身動きが取れなくなるような辛い恋をしていた頃によく読んでいたのが小川内初枝さんの作品。
一緒にいるのに独りぼっちになったような感覚にとらわれる女性の気持ちが見事に描かれた「恋愛迷子」など、恋に落ちてしまった女が抱える闇と光と、自分でもどうにもできない混乱や混沌を描く小川内さんの言葉は、いつも私に優しく寄り添ってくれました。

もう作家としての活動は少なくなっているかもしれないけれど、いまここに、こうしている私のなかには、間違いなく、あなたの言葉と物語は存在しつづけています。
あなたのカケラが、いまの私を作っているのです。
作品が発表されなくなってしまっているのには、なにか理由があるのだと思います。
それでもあなたが書いた物語の痕跡は、私のような読者にしっかり残っている……。

ふとした瞬間に、お二人以外だけではなく、書かなくなった作家さんを思いだすといつも、そんな風に思うのです。