読書する女

本を読むこと以外、すべてのことを放棄してしまいたいエディター&ライター、Aliceによる本の話、日々のこと。

香らない、金木犀。

 

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Twitterで「金木犀」という言葉をちらほら見かけ、秋がやってきたのだなと実感した今日。

あの香りを、とても愛おしく感じました。

「スメハラ」という言葉が生まれるほど、最近では柔軟剤や消臭芳香剤の強い匂いがあふれていますが、やはり自然の花々の香りは格別です。

 

我が家はこれまで3度引っ越しをしていますが、どういうわけかどの家の庭にも金木犀が植えられています。

現在の住まいにも……。

ただ、金木犀が咲いているにもかかわらず、我が家で金木犀の香りを感じることはありません。

どうやら、香らない金木犀なようなのです。

 

我が家は、細い路地を曲がって数軒のところにあって、角を曲がれば金木犀の花の鮮やかなオレンジ色が目に飛び込んできます。

きっと多くの人は

「あ、金木犀」

と心を少し躍らせることでしょう。

でも、近づいても香りを感じることはできません。

 

そして、花のそばを通り過ぎるとき

「なーんだ」

とがっかりするでしょう。

 

母もよく言っていたものでした。

「せっかくの金木犀なのに、香らないのなら、意味がないわ」

と。

その言葉を聞くたびに、チクリと胸が痛んだものです。

 

せっかく女の子に生まれたのだから……。

せっかく大学を卒業したのだから……。

せっかく会社員になったのだから……。

せっかく彼氏ができたのだから……。

 

この世には“せっかく”があふれていて、がんじがらめにされてしまいます。

挙句、「意味がない」とか「無駄になった」なんて言われるのですから、たまったものではありません。

 

母が香らない金木犀を見てため息をつくたびに、まるで自分のことを非難されているようでいたたまれない気持ちになりました。

だから、ということもないのですが、私にとって、我が家の庭で少しずつ花が開きつつある金木犀は、愛しくて仕方がないのです。

香らなくても、愛おしい。

この季節を待ち遠しい気持ちにさせてくれる大切なものなのです。