BOOK001 『とりつくしま』 東直子
歌人である東直子さんの2冊目の小説、『とりつくしま』が文庫化されたとのことで、再読しました。
デビュー作の『長崎くんの指』も独特な世界観がみずみずしい作品でしたが、2作目ははまた一段と魅力的な内容に仕上がっています。
書かれているのは、人の“執着”と"未練"。
死んでしまった登場人物に「とりつくしま係」の人たちが、
「この世に未練はありませんか。あるなら、なにかモノになって戻ることができますよ」
とささやきかけます。
そして登場人物たちは、それぞれの執着と未練を晴らすため、さまざまなモノへと変貌していくのです。
人は、なにかにとらわれずには生きることはできません。
執着があるからこそ人と人との関係はおもしろく、また感情を揺さぶられるとも言えるでしょう。
執着の対象は、さまざま。
好意を抱いた相手、勤めている会社での地位、お金、食べ物、いつまでも美しくあること、会社などの組織に束縛されず自由に生きること、死あるゆえに生に執着するという人もいます。
ただ、執着するほど誰かやなにかを強く思うということは、とてもエネルギーがいることで、苦しく、切ないもの。
苦しくて、切ないけれど、それでも思わざるを得ない。
そんな存在に出くわすなんて、生きているうちにそうそうあることではないと思うので、私はそういう存在に出会ってしまったときには、思いっきり執着してしまうことにしています。
この本に登場する、主人公たちのように。
これからも、数少なくても執着せずにはいられないようなものたちを大事にしていこう宣言! を私にさせた1冊です。