BOOK020『明るい夜』 黒川創
明るい夜 (文春文庫) | 黒川 創 |本 | 通販 | Amazon
このままじゃいけないとわかっているけれど、先は見えず、身動きをとることすらできない。
いつかの私が思い描いたのは、こんな私じゃなかったのに……。
そんな思いにからめとられる経験は、きっと誰にもあることなのでしょう。
私にとっては、大学を卒業してから26歳になるまでの4年近くがまさにそんな時期でした。
今でこそ、ライター&エディターをしている私ですが、大学4年の時、就職活動で受けた出版社の採用試験はすべて不採用。
それでも編集者になることを諦めきれず、出版社でアルバイトをしながら、これから先一体どうしたものかと、毎日のように途方に暮れていたものです。
結局、そのころ途方に暮れながらもアルバイトしていた経験のおかげで、今私はこうしています。
本書のなかには、あの頃の途方に暮れた私がいました。
いまいち関係のはっきりしない恋人と、アルバイト先であるイタリアンレストランの仲間や上司と過ごす本作の主人公は、これといった目標も見つけられずに眠れない日々を過ごしています。
アルバイト先に行けばやるべき仕事はあるけれど、やりがいがあるわけでもない。
ただただ眠れない夜だけが積み重なって……。
そんな時は、自分のおかれた状況に決して慣れることなく、疑問を抱き続けられるかどうかが、その先5年、10年経ったとき大きな差になる、と自分自身の経験を振り返りながら読了しました。
目標が見つからなくてもいい、身動きができなくてもいい。
ただ「このままじゃ、いけない」「なんとかしなくちゃ」と思い続けて、周りの人との関係や、やりとり、街の風景、耳に飛び込んできた他人の会話に敏感になって、今を変える糸口を見つけようと足掻くことさえ忘れなければ、きっとそんな遠くない日、糸口は見えてくるのです。
そう信じて、目の前のことに一生懸命になるだけでも、その後の世界は変わってきます。
だからたくさん足掻けばいいのです。
とりあえずがむしゃらにやってみるしかありません。
今は手ごたえを感じなくても、あなたの明日は拓けるはずだから。
まさに今、「このままじゃいけない」「なんとかしたい」と思っている人、ぜひ読んでみてください。
2017年6月30日のお買い上げ本。
急に決まった取材の資料を買いに、大慌てで飛び込んだ本屋さん。
「仕事の資料だけ」
「荷物が多いから、資料以外に自分用の本なんて買ったら、重くて仕方がないよ」
と自分に言い聞かせていたにもかかわらず、買ってしまう私。
でも、これもよくある話です。
というわけで、本日のお買い上げ本です。
●『タラブックス インドのちいさな出版社、まっすぐに本をつくる』 玄光社
世界中の本好きを魅了し、奇跡の出版社とも呼ばれる出版社がインドにあったなんて!
インドのイメージも、本作りに対する考えもいろいろひっくり返りそうな、期待感がひしひしと。
かわいい表紙も、印象的でした。
版元である玄光社さんといえば、イラストレーションファイルを出しているところ。
いつもお世話になっている、あの分厚い本を出している出版社さんがこんな本を出しているなんて、とレジに向かいながら版元名を確認し、二重のびっくりなのでした。
●『今日の人生』益田ミリ ミシマ社
私の周囲やTwitterで評判がよくて、ずっと気になっていました。
朝日新聞の「折々のことば」でも取り上げられていて、気になる熱が上がっていて、今度、本屋さんに行ったら買うぞと決めていたのでした。
でも、こんなに荷物を持っている今日じゃなくてもよかったのでは、私……。
●『文学効能事典 あなたの悩みに効く小説』 フィルムアート社
「腰が痛いとき」
「歯が痛いとき」
「恋人と別れたとき」
「ホームシックのとき」
「飛行機がこわいとき」
「結婚相手をまちがえたとき」
「職を失ったとき」など、人生の深刻な危機も心身の不調をもたらす悩みとして取り上げている。さらに「二日酔いのとき」
「深く関わるのがこわいとき」
「ユーモアがわからないとき」
人生のさまざまな悩みに効く文学辞典なんて、わくわくしない人がいるのでしょうか。
ずっと発売を心待ちにしていた1冊です。
楽しみすぎて、仕事の資料を放ったらかしにしそうな予感。
BOOK019 『薬指の標本』 小川洋子
小川洋子というと、あの“博士の愛した数式”を思いうかべる人が多いと思います。
私は彼女の書く幻想小説がとっても好きです。
愛にまつわる、どうしようもなさを描いた短篇2作品が収録された本書も、現実にはありえない、ちょっと不思議な設定の物語に仕上がっています。
表題作でもある“薬指の標本”は愛に囚われはじめるときに起きる、不信と抵抗、そして諦観をみごとに描いた作品。
1つの愛を前にあまりの居心地の良さに身を任せていたら、ちょっとした疑問が胸にわいてきてしまい、不信とらわれ、ふらふらと惑ってしまうことはよくあるものです。
不信にさいなまれたことで生じた溝や亀裂が原因で、その愛を失ってしまう人もいるでしょうし、その不信を解消することに躍起になる人もいることでしょう。
不信にまけて、諦めて、自ら愛を手放す場合すらあるでしょう。同じ諦めでも、不信に抗う行為自体を諦めたら、惑わされることなく、その愛にだけ熱情を注ぐエネルギーに変わるのかもしれません。
愛に囚われた人間は、あらゆる可能性と感情を前に、翻弄され続けるしかないんだな、という当たり前のことを思い知らされる物語です。
ネタばれになってしまうので書かないけれど、2篇目も人が愛を前にして遭遇してしまうだろう熱情について書かれた秀作。
日本語が美しくて、文章も上手なので、スラスラと読めてしまうので、注意してください。愛にまつわる驚くべき瞬間や、すさまじい切り口を見逃してしまうから。
見逃さないように、息をひそめて、眼をこらして、読んでください。
2017年6月16日のお買い上げ本。
金曜日、ランチの帰りにふらりと立ち寄った本屋さん。
私のお買い上げ本の大半は
「さーて、本でも買いに行こうか!」
と気合を入れて出かけたときではなく、"ふらり"と立ち寄った際に出会ってしまったものがほとんどです。
あの本を買わなくちゃという、確固たる目的がない分、
「あら、こんな本が出てるのね」
「へー、こっちもおもしろそう」
とあっという間に、腕の中は本でいっぱいになっていきます。
そして厄介なことに、本という代物は、一度、抱え込んでしまったら
「ちょっと多いわね、何冊か諦めましょう」
なんてことができないのです。
というわけで、6月16日(金)のお買い上げ本です。
●『アルカイダから古文書を守った図書館員』 ジョシュア・ハマー 紀伊國屋書店
某雑誌編集部の書評ページの担当者さんから
「きっと、お好きだと思います」
と教えてもらったもの。
戦争やテロは、自分たちにとって都合が悪い教義や歴史の書かれた本、美術品を破壊しようとする集団と守ろうとする人たちとの闘いという側面もあると思っています。
教義や歴史を破壊するためだけではなく、営利目的の場合もあるでしょう。
ナチスも多くの美術品を略奪したことで知られていますし。
日本人にはあまり馴染みがありませんが、マリ共和国のトンブクトゥは「古の学術都市」。
アルカイダが麻里を制圧したとき……。
帯文を読むだけでドキドキしてしまいます。
●『おはなしして子ちゃん」藤野香織 講談社文庫
昔、文芸の編集者をしていたころは、さまざまな作家の本を手当たり次第読み、
「この作家さんから原稿をもらいたい」
と思える作品を探していたものでした。
その後、週刊誌記者、暮しの手帖編集部、フリーランスの編集&ライターになってからは、手当たり次第ではなくなったこともあり、読む作家さんも、作品もだいぶ狭くなってしまい……。
藤野香織さんは、気になりながら出を出さず仕舞いで、これまでやり過ごしてしまった作家さんの一人です。
文庫になっていたのをきっかけに。
共謀罪とか道徳の教科書問題について、話す機会があったときに、
「あなたは右と左、どっち?」
なんて聞かれたことがありました。
その数日後、友人から
「この間、右と左どっち? と聞かれちゃって」
と相談されたのです。
右と左。
かつて、その単語がとても大きく取り沙汰され、人々の関心事だった時代もありました。
でも平和な時代が続き、右と左を意識することもなく
「そもそも、右って? 左って?」
という思っている人も増えていたのではないでしょうか?
でも、安倍内閣を取り巻く一連の問題から、これまで右と左という概念から遠ざかっていた人も、無関係ではいられなくなったように思います。
だから、いまこそ、右翼と左翼について考えるきっかけになる本が必要になってきているのかもしれません。
右か左かと問われて困ってしまったという友人に贈るために買った1冊です。
まったく関係のない話ですが、ご要望に応じて本を選ぶ生業もしています。
ご興味がある方はお知らせください。
じたばた、しない。
実は、私、目下、仕事もプライベートも停滞中です。
もうちょっと若い頃の私であれば、
「なんとかしなくっちゃ」
と頭はフル回転。
あんなことをしてみたり、こんなことをしてみたりと焦って、なんとかイマイチな状況から抜け出そうとしていました。
でもこれは、イマイチなときだけの話ではなく、上手くいっていても同じ。
もっと上手くいくようにするためにはどうすればいい?
いまの状況がずっとつづくには何が必要?
そんなことばかりを考えて、おなじく頭はフル回転、焦ってあれこれ動く……。
ところが最近では、停滞していても、うまく行っていても、ジタバタせずに、どっしり構えるように変わってきました。
特に、停滞しているときほど、ジタバタしないように努めています。
なぜなら、停滞している理由をじっくりと見つめたいからです。
焦ってフル回転させた頭では、気づけないことがたくさんあります。
あんなことをしてみたり、こんなことをしてみたりするなかで、抜け出せたとしても、根本的な原因がわかっていないのだから、またしばらくすると停滞はやってきてしまうのです。
だからこそ、どっぶり停滞感にはまって、とことん向き合わないと。
なにより、大事なのは日ごろの努力です。
うまくいっていないからといって急に頑張っても、付け焼刃。
火事場のバカ力はもちろん大切だけれど、それはあくまで非常事態への応急処置です。
毎日、ちゃんと考えて、動いたことが積み重なることこそが自分を支える力になります。
うまくいっているときも同じこと。
どうして今、うまくいっているのかをジタバタせずに考えないと経験として身についていかないような気がしています。
だから、じたばた、しない。
停滞中の今だからこそ、じたばた、しちゃいけないのです。
思いっきり、停滞してしまえ!
そう考えたら、気持ちが少しラクになります。
悪くないです、停滞感も。
2017年6月11日のお買い上げ本。
中野に行くと必ずと言っていいくらい立ち寄るのが、ブロードウェイのなかにある、タコシェです。
いわゆる新刊書店とは一線を画すその存在感……。
リトルプレスやZINEの取り扱いが豊富で、いつも新しい発見があります。
所用で中野に立ち寄った本日、タコシェでのお買い上げ本です。
⚫『紙ものづくりの現場から』 名久井直子 グラフィック社
エディトリアルデザイナーの名久井直子さんが、紙を作る工場や活版印刷の現場、製本所などを訪ねた1冊。
編集者、ライターとして本にかかわる仕事をしている私には馴染み深い場所がたくさん出てきます。
名久井さんの目を通すとどんな発見があるのか知りたくて、お買い上げ。
名久井直子さんには、取材で本棚を見せていただいたことがあります。
そのときのお話がとても興味深ったのを記憶しています。
そんな名久井さんの本。
楽しみです。
⚫『I LOVE YOUの訳し方』 望月竜馬 雷鳥社
実は私、この15年ほど前から、恋とか愛とかなもの蒐集家と名乗っています。
恋愛小説のみならず、恋文はもちろん、恋とから愛とかなものを集めているのです。
この本の帯には、こう書かれています。
“ 夏目漱石はI LOVE YOUを「月が綺麗ですね」と訳したそうです あなたならどう訳しますか?”
こんな帯文に出会ってしまったら、恋とか愛とかなもの蒐集家として、買わずにいられるでしょうか。
⚫『仕事で文脈 vol1』
こちらはリトルプレスです。
リトルプレスの創刊号は、たいそう貴重。
人気が出て、発刊しつづけているものであっても最初は少部数からスタートするものです。
3、4号あたりでその存在を知った場合、創刊号はsold outになっているケースがほとんど。
『仕事文脈』もそうでした。
2012年に発売された創刊号に出会えるとは、さすがタコシェ。
2017年6月8日のお買い上げ本。
ずっと書いていなかった、お買い上げ本。
再開することにしました。
記録のために。
そして、ブログを更新する習慣を、取り戻すために。
ただ、冊数が多いとうまく写真が撮れなかったり、その時間がなくて後回しにしているうちにタイミングを逃したりすることが多いので、写真はなしで。
2017年6月8日のお買い上げ本たち。
●『星の子』. 今村 夏子 (朝日新聞出版)
2010年に書籍化された『こちらあみ子』を読んで以来、追いかけつづけている今村夏子さん。
文芸ムック「たべるのがおそい」に発表した『あひる』は芥川賞候補にもなりました。
多作な作家さんではないので、新たな作品が発表されると気持ちがざらざわするのです。
●『カストロの尻』 金井美惠子 (新潮社)
金井美惠子さんの作家50周年記念作品。
50年間第一線で物書きを続けてこられたという偉業にまず、感服します。
金井さんの作品はもともと大好きで、これまでも読んできたのですが、本作はあの岡上淑子さんのコラージュが効果的に使われているとか。
そう聞けば、買わずにはいられません。
●『美少女美術史』池上英洋・荒井咲紀 (ちくま学芸文庫)
ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』を愛して止まない(このブログはもちろん、TwitterやInstagramなどあらゆるSNSのIDに Alice を使っている)私にとって、少女は大きなテーマです。
少女関連書籍はマストバイ。
●『猫の文学館I』『猫の文学館II』 和田博文 (ちくま文庫)
どちらかというと犬派です。
でも『魔女の宅急便』に出てくる黒猫のジジも、赤川次郎さんの書く『三毛猫ホームズ』も幼い私にとって、アイドルでした。
最近はミーアキャットにくびったけです。
要は、動物が大好きということ。
そのせいもあって、動物が出てくる小説やエッセイをまとめたアンソロジーにはついつい手が伸びてしまいます。
●『高校図書館デイズ』 成田康子 (ちくまフリマー新書)
学生時代の私にとって、図書館は特別な場所でした。
そのまんまの自分でいていい、唯一の世界。
現実から逃げて、興味と好奇心のままに本を選び、ページを繰る楽しみを感じることで、なんとか自分を保っていたあの頃。
立ち読みのつもりでパラパラと中を見ていると、あの頃の自分をふと思い出して、息苦しくなり、そして目が離せなくなりました。
●『花の命はノー・フューチャー』 ブレイディみかこ (ちくま文庫)
最近、私のまわりで人気急上昇のブレイディみかこさん。
「絶対に読んでみるべきです」
と熱く薦める知人の言葉が頭をよぎり、文庫新刊棚から最後に選びました。